君に恋をするなんて、あり得ないはずだった
君に恋をするなんて、あり得ないはずだった 著:筏田かつら
上下巻からなる高校生のラブストーリー。
スクールカースト上位の派手めな女の子と、ほぼ底辺の眼鏡男子の恋の行方を綴った物語となっている。
こういう設定は最近多いのでだろうか?
私的には目新しいものを感じた。
しかし内容的には非常によくある展開が続く。
勘違いやすれ違い、素直になれない女の子に勇気を出せない男の子。典型的なボーイミーツガールテンプレート③といった展開だ。
しかしそんなありきたりな内容ながらもこの小説は面白い。
なぜなのか?
それは恐らくこの作者の巧みさにある。
主人公の男の子が素直になれないのには根深い問題やヒロインの言動に問題がある。
一方ヒロインが素直になれないのにもスクールカースト的な背景や主人公のどっちつかずな気弱さや生い立ちに問題がある。
そういった細かい背景を的確に、しかもくどくなく効果的に挿入しているので、読んでいる方もご都合主義的な展開に白けることなく引き込まれると感じた。
とことんまで焦らして読者を引き付けるのだが、やがてそれを開放し、読者にカタルシスを与えなくてはいけない。そこもこの作者筏田先生は秀逸だった。
とにかく結ばれてから先も徹底的に書き尽くして、ぶっちゃければ『ヤッちゃう』ところまで描いているのだ。
以前時給三百円の死神のレビューにおいてラストを引っ張りすぎたがゆえに大傑作になれなかった話をしたかと思うが、この作品はそれには当たらない。
何故なら三百円の方は焦れ焦れ展開をだらだらと続ける童貞の妄想を垂れ流された印象なのに対して、本作は行き着くとこまで行き着いていちゃつく爽快感があるからだ。
もちろんこちらはラブストーリーであちらはヒューマンドラマなのでその違いもあるだろう。
と、ここまでは褒めてきましたが、本作にも惜しいと思うマイナス点はあります。
ご都合主義は既にお話ししたので割愛しますが、そのほかにもいくつか見られます。
まずヒロインの友達がいきなり現れて主人公に恋をするという急展開がついていけない。
キャラクター的にはヒロインの友達はとてもいいキャラなので好きだが、やや人間として描かれ方が浅すぎて二人の恋の障害としての小道具感が出てしまっている。
ちなみにこのヒロインの友達キャラはスピンオフ作のヒロインとなっているらしいので、そちらでは活き活きと描かれているのだろう。
次にWeb発の小説らしく嫌な展開というのが浅すぎる問題がある。
Webで連載していると展開がダークになっていくと読者から非難や罵声が飛んでくるという問題がある。
また金を払って買った本じゃないから嫌になったら途中で読むのを簡単に放棄してしまうという問題もある。
そのため大抵のWeb発の小説は鬱になる展開が浅くなりがちという問題を孕んでいるのが現状だ。
主人公が美少女ちゃんのヒロインと仲良くなるから嫌がらせを受けるのだが、これが実に僅かしかなく、とても軽い。加えてのちに嫌がらせをした男は罰を受ける。これをWeb小説界隈では『ザマァ展開』と呼ぶらしい。
このザマァカタルシスがないと『ヘイト管理が出来ていないっ!』とご自身の感情も管理できていないような素人評論家センセイが目を剥いて怒ってくるので、仕方のないことなのだろう。
最後に纏めると、この作品は『伝統的にありがちな展開を丁寧に書き綴ることで昇華した佳作』である。