読んだ本や観た映画について個人的な感想をだらだら語る日記

とにかく読んだ本や映画の感想を垂れ流してます。いいところも悪いところも語るので時に辛口のときもあります。

余命十年

作者が刊行を待たずに急逝した小説『余命十年』。

ヒロインが死んでしまう作品というのはたまにある小説だけれど、本作は作者が本当に病気で死んでしまうので恐らくはその心情を投影した作品なんだと思う。

正直この作品のレビューはすべきではないと思いました。
当たり前ですが小説家の遺作というものは数多くあります。しかしこの作品は正にその生き死にについてかいたものでしょう。
文字通り命を削って創り上げた作品です。

その作品に良し悪しとか意見をいうのは躊躇われる。そう思ってレビューはやめておこうと思ってました。
しかし作品を読んで私の心に残ったものを書かずにはいられないのでレビューさせてもらいます。

はっきり言って文章的にはとても面白くない表現ばかりで読むのが苦痛なレベルだと感じました。
無理に詩的だったり、深みを出そうとしている心情描写が多々あるのですが、それらの九割以上は心に刺さらず上滑りしていきます。

読めば読むほど白けました。
誰にも踏まれていない雪のように美しい綺麗なものが心の中に生まれて温かな気持ちになった的な表現の時は酷すぎて怒りを覚えながら笑いました。

ストーリーの方は悪くないです。十年という長い期間を描いた作品ですから中弛み的なところもありますが、劇的過ぎない展開はなかなか好感が持てました。

ただ主人公の姉やら友達やらがみんな美女、それも街ゆく人が振り返ったり溜め息を漏らすほどの美女っていうのは失笑してしまいました。
そんな美女ってほとんどいないと思いますが、この作中には頻繁に出て来ます。

読み進めながら何度も「死を前にした人がこんなこと思うのかな?」などと感じましたが、その度に「この作者は実際に死と隣り合わせで書いているのだから感情は間違いない」と思い直し、自分の思い込みを諫めました。

しかしこの作品(文庫版に限る)、最後の最後に感動や作品の価値を打ち消す、衝撃的なひと言で括られております。
作者が書いた本文ではありません。

実はこの作品、十年前に刊行されたものの文庫化なんです。
大幅に加筆修正されるらしいのですが、十年前の作品なんです。
作者は自分の作品が世に出るのを見届けることなくこの世を去ったのかと思いきや、十年前に世に出たのを見届けてるんです。

帯やら宣伝にすっかり騙されました。
十年前に話題になったという記憶もないので、ちっとも売れなかったのでしょう。その後この小坂さんの作品も発刊されてないので初版のみだったんじゃないでしょうか?
そんな作品を亡くなる間際に単行本化した出版社に薄ら寒い恐ろしさを抱かずにはいられません。

私が死ぬ間際の人がこんなこと思うのかなと感じた疑問も、十年前に書かれたのならばもっともなのかもしれません。
作中のヒロインを見る限り、余命十年の時点ではとても元気です。

散り行く間際、病床で綴った作品と勘違いし続けながら読んでました。
もちろん確実に訪れる死を覚悟して書いた作品には違いありませんが。


結論として最初に述べたとおり小説としてとても未熟で退屈な文章の羅列が目立つ作品です。
お涙ちょうだい的な今風にいえば感動ポルノじゃないところはとても評価できます。命と向きあうというその一点だけはとても評価できました。

もし読むべきか迷ってる人がいるなら、あまり読む価値はないと言わざるを得ない。私はこの作品を読むことで「小説ってこんなにつまらないものだったっけ?」と苦痛に感じました。
そのあとに読み出した小説が面白すぎてびっくりしたくらいでした。

こんなえげつない文庫化で金儲けするくらいなら、出版社ほもっとこの作家を大切に育てて上げられなかったのだろうかと気の毒に感じました。