読んだ本や観た映画について個人的な感想をだらだら語る日記

とにかく読んだ本や映画の感想を垂れ流してます。いいところも悪いところも語るので時に辛口のときもあります。

よるのばけもの

よるのばけもの 著:住野よる

イジメとスクールカーストについての問題を提起した住野よる三作目の作品。

明確な答えや正解がないテーマについて書かれているということを踏まえた上で読んでも、実にありきたりな結論しか提示できていないという印象でした。

しかもそれに十万字ほど費やしたのにも拘わらず、まるで説得力を持たないのが残念。
それが出来たら苦労しないという綺麗事ばかりを並べ終わります。

しかしそこに主人公が化け物になるというファンタジー要素を入れることで、なんとか腑に落ちるところに着地するのかと思いきや、そうでもない。
驚くことに最後の一行で主人公は化け物になることが出来なくなったと書かれてあるからだ。

主人公が夜な夜な化け物になることに悩まされているというなら話も分かる。
しかし化け物になる夜を楽しみにしていたのだから、主人公がスクールカーストもイジメも無視して取った行動の結果がそれだと言われてもちんぷんかんぷんである。
繰り返す。ちんぷんかんぷんである。

提示された伏線に対しほぼ全て明確に答えていないというのも作品の特徴である。
ガラスを割っていた犯人やヒロインの奇行、なんとか君は悪い子だよ発言。
それは別にいい。
はっきりと明言しなくても汲み取れるので。
しかしそういうスタンスなので最後一行の「その夜僕はすっきり寝られた」というのも化け物に変身できなくなったと取るよりほかない。

また雨の体育館で『守られているが閉じ込められている』的な一文も恥ずかしい。
それ自体はとてもいい表現だと思ったが、あまりにも唐突に、なんの脈略もなくぶっ込むから中二病全開発言のような印象しか受けなかった。

きっとどうしてもこのセンテンスを入れたかったんだろうねと感じてしまった。

ただもちろん本作にもいいところはある。
特に一番胸に響いたのはヒロインが誰でも知ってるバンドを臆面もなく好きだといってその良さを語るシーンである。
あそこを読んだときに鳥肌が立った。
ここからこの作品は急激によくなるんだ、とあの時の私は思っていました。

でもあのシーンだけでも本の値段の価値はありました。
この本は買う価値があるかと訊かれればあります。あのシーンだけで元が取れるから。

ストーリーが暗くて終わり方がいまいちで謎が解明されてないとか、そういうことは気になりません。
これはそういう小説だと思いますから。

ただイジメやスクールカーストについて語るには、あまりにもありきたりすぎる上に実現がほぼ不可能で理想主義な作者の見解には到底頷けませんでした。

せっかく化け物というファンタジー要素を使ってるのだから、そこをもっと上手く使って少し馬鹿馬鹿しい夢物語になっても独自の切り口が欲しかったなぁと思いました。