読んだ本や観た映画について個人的な感想をだらだら語る日記

とにかく読んだ本や映画の感想を垂れ流してます。いいところも悪いところも語るので時に辛口のときもあります。

三日間の幸福

三日間の幸福 三秋縋

十歳の頃、自分が二十歳になる頃には素晴らしい人間になるはずだと信じて疑わなかった主人公。
二十歳になったときには思い描いていたのとはまるで違う惨めで虚しい人生を送っていた。

そんな彼が人生を買い取ってくれるところがあると聞き、査定に向かう。
その人の残り人生の「価値」によって買い取り値段は違う。主人公の査定額は一年一万円と聞かされ、愕然とする。そして未練なく三十年売り払ってしまうというところから物語が始まります。

本屋で見掛けて何となく買った作品ですが、その素晴らしさに夢中になって読み耽ってしまいました。

最近流行りの奇想天外なストーリーでありながら、登場人物達の動きはリアリティがあるというタイプの物語です。
ミステリーも恋愛もやり尽くされた感のある現代において、この手法というのは実に便利であり面白いテーマが作れると思います。

この作品がそういった『奇想天外ながらリアリティ』型の他の作品と一線を画すところは、その言葉の選び方や描写です。

心に突き刺さるセンテンスがとても心地よくて素晴らしい。

逆に唯一の欠点に感じたのはたまにまったく刺さらないセンテンスもそこそこあるということでした。
まあ、そこは個人差があるでしょうけど。

作者の三秋縋さんは軽快で軽い文章を使いながら深淵で闇の深いテーマを書くということ主題にしてるのだと感じました。

更にこの人が凄いところは深いテーマを描くだけで自己満足をせず、歪ながらも心温まるある意味ハッピーエンドに持っていくところだと思います。

ストーリー構成、文章表現、時代を読む力。その全てを持ち合わせているとてつもない作家さんだと感じました。

ネット発の作家さんらしいですが、今や小説界でも時代はそういうところから生まれていくのだなぁといい意味で感じさせてくれる作家さんです。

コーヒーが冷めないうちに 

コーヒーが冷めないうちに 川口俊和

過去に戻ることが出来る喫茶店で起こる四人の女性の物語。
本屋大賞にもノミネートされた作品です。

四回泣けますとか帯びに書かれてますが、恐らく一回も泣けないでしょうから気を付けて下さい。*個人の感想です。

悪い点から先に挙げてしまうと、まず文章に面白みがない。
私は小説を読むとき一番期待するのは文章の面白さ、表現の面白さです。
それは別に文章が上手か下手かではなく、単に面白い文章かそうでないかという問題です。
本作はまるで面白い表現がありません。

次にストーリーがありきたりすぎる上に泣かせようと必死なところがよくありません。
だいたいそうだろうなぁと思う通りにストーリーが進みます。

登場人物の名前が計とか数とかで名前なのか文章なのか分かりづらいのもよくないと思います。
ややこしい上に特にその名前である意味も感じません。人物の名前に意味を求めるというのも無茶な話かもしれませんが。

また過去に戻れるということに沢山のルールがあり、それがまた説明臭くてややこしい上にオムニバスの四話ともくどくど説明するのでうんざりします。

と、まあ、かなりディスりましたが、いいところももちろんあります。

装丁がお洒落ということ。
……だけじゃないです。

作者が劇作家というだけあって舞台は徹底して喫茶店内部だけというストイックさがいいです。
それも店のあちこちにカメラ(視点)が動かず、ほぼ定位置にあるのがすごい。
最初から最後までそれを貫いています。

また登場人物がそれぞれに絡み合い、無駄な人物なく結ばれてるのが、なかなか見事です。
広がりよりも深さで勝負する作品ですね。

また作中で語られない謎というものがあり、その辺りにも私は深さを感じました。人によっては解決されない疑問が残ったと嫌う人もいるでしょうけど。

いいところと悪いところを書かせて頂きましたけど、結論を言うと私はあまり面白い小説とは思いませんでした。
五十万部も売れてるらしいですが、はっきり言って驚きです。

期待せずに文庫で買ったら「まぁまぁかな?」という感じでしょうか。

四六判で買うほどのものではありません。