時給三百円の死神
時給三百円の死神 著:藤まる
最近の小説というのはタイトルにインパクトがなくてはならない。
そのインパクトで『通りすがりの人』をなんとか『読者』にしようと努力をしている。
未だに頑なに『さくらの咲く頃、もう一度君と』とか『僕の叫びがキミの心に届くまで』的なタイトルで頑張ってるのはケータイ小説全盛期の幻想から抜け出せない出版社くらいのものである。
さていきなり話が逸れてしまったが、今回紹介する作品は時給がたったの三百円という不当に安い賃金で働かされる死神の話である。
本作は数話構成のオムニバスでそれらが纏まって一つの物語を成すという、伝統的なスタイルが用いられている。
この形式の小説は嵌まれば面白いし、1話ずつが嵌まらなくてもどれか1話くらいは嵌まるのでリスクも小さい。
更には全体としても一つの物語となるのだからこぢんまりとした印象にならないのも利点だ。
結論から言うと本作はそれら一つひとつの説話も面白いし、全体の話も面白い。
成仏できない霊を成仏させるのが死神のお仕事で、それをしている主人公は高校生という設定だ。
物語の一番主軸となるトリックは残念ながらすぐにバレてしまう簡単なものだが、別にミステリーではないので構わないと思う。むしろそうであろうと思って心の余裕を持って読めると思えばいい。
ただ問題はラストの締め方だと感じた。
せっかくそれなりにテンポよく面白かったのに、やけに長くて引っ張りすぎなのである。
こういうのは物足りないくらいササッと終わらせて締めるべきだと思うのだが、とにかくやたらだらだら続く。
余韻を持たすくらいでいいのに、とにかくだらだら遊ぶし喋る。その上その後まで描いちゃう蛇足ぶり。
どうせ長引かせるならいちゃラブを濃くするとかしたらいいのに、もどかしい焦れ焦れで長い。
恐らく作者はこの手のストーリーでササッと終わってしまう作品に不満でもあったんじゃないかと邪推する。
だから自分はネチネチと書き綴ってしまったのではないだろうか?
ところでこの作者は将来を嘱望されながらずいぶん前作より時を経て、メディアワークスから双葉に鞍替えしての新作発表だったみたいである。
ちゃんと物語をいくつも書き慣れていればこのようなもったいぶった焦れ焦れ蛇足はカットできたのではないかと悔やまれる。
もしかしたら別名で官能小説とかを書いていたのかもしれないが、久々の『藤まる』クレジットでの仕事に肩の力が入りすぎたがために着地に失敗した感じはする。
双葉は官能小説レーベルとしてもしっかりとしたものがあるから、その繋がりで今作があるのかもしれない。
他人の財布事情などゲスの勘繰りもいいところだが、藤まる先生のような久々に出版する人というのはその間何をしているのか不思議でならない。
万が一にも藤まる先生はこんな場末の読書ブログなど拝見はされていないだろうが、もし読んで下さっていたら是非次回作はもう少しサラッと余韻を残すようなラストにして頂ければと思います。
時給三百円の死神、買う価値のある面白い作品でした。